親が年を重ね、病気や認知症などによって自分の力だけでは生活できなくなったとき、家族は大きな決断を迫られます。
自宅で介護を続けるのか。それとも、介護施設に入居してもらうのか。
本人が「家に帰りたい」と願っているなら、できることなら希望をかなえてあげたいと思うでしょう。これまで育ててもらった親なのだから、自分たちで面倒を見るべきだと考える人もいるかもしれません。
しかし、実際に介護する家族にも仕事があり、自分の生活があります。介護に必要な手助けを、家族だけで担うことが難しい場合もあります。
私自身、父を特別養護老人ホーム(特養)に入居させるまで、家族としてさまざまな葛藤を経験しました。そして今度は、入院した母の退院後の生活をどうするかという問題に直面しています。
親を施設に入れることは、冷たいことなのでしょうか。
父と母、それぞれの介護を通して考えたことを、率直に書いてみたいと思います。
父が病気になり、車椅子での生活が始まった
父は70代後半になった頃から、大きな病気を患うようになりました。
潰瘍性大腸炎やリンパ腫などの病気で入院する機会が増え、さらに、潰瘍性大腸炎で入院していた際に脳梗塞を発症しました。
その結果、車椅子での生活を余儀なくされるようになりました。同時に、認知症の症状も強くなっていきました。
その後、父はリハビリの病院へ移り、さらに介護老人保健施設(老健)に入所してリハビリに取り組むことになりました。
ところが、ここで新たな問題が生じました。
老健で短期間入所(3~6か月)が原則のため、退所後にどこで暮らすのかを考えなければならなくなったのです。
母は父を自宅に連れて帰りたいと願っていた
当時、母は父がリハビリを続ければ、再び歩けるようになるのではないかという希望を持っていました。
父を自宅に連れて帰り、自分で面倒を見たいという思いも強くありました。
親を自宅で介護したいという気持ちは、私にも理解できます。
長年連れ添った夫婦ですから、できることなら一緒に暮らしたい。慣れ親しんだ家で生活させてあげたい。そう願うのは自然なことだと思います。
しかし、現実には難しい問題がありました。
車椅子で生活する父を自宅で介護するには、トイレや入浴、食事など、日常生活のさまざまな場面で手助けが必要になります。
母自身も肺がんを患った経験があり、決して健康面に不安がないわけではありませんでした。
さらに、私たち夫婦も仕事をしているため、日中は家にいません。
父と母だけを家に残して出かけた場合、何かあったらどうするのか。安全に生活できるのだろうか。
そう考えると、父を自宅に連れて帰ることには大きな不安がありました。
母の希望をかなえてあげたい気持ちと、現実的に介護を続けることの難しさ。その間で、家族として悩むことになりました。

父を特養施設に入れることを決断した理由
私たち家族は、父が暮らせる施設を探すことにしました。要介護4と指定されたため、特養老人ホーム入所を目指すことにしました。
母と私、そして妻と一緒に、いくつかの施設を見て回りました。しかし、母は父を自宅に連れて帰りたいという気持ちをなかなか変えませんでした。
そんなとき、偶然、私が以前から知っている先輩に会う機会がありました。両親のことも知っているその先輩は、「ご両親は元気?」と聞いてくれました。
思わず現状について正直に話すと、その先輩の奥様が高齢者施設の経営に携わっていると教えてくれたのです。
早速、奥様とつないでいただき、相談するチャンスを作ってもらうことができました。そこで、幸いにも、自宅から徒歩圏内にある特養老人ホームを紹介してもらうことができました。
父が入居した後も、家族が訪問しやすい距離です。
この条件なら母も納得してくれるのではないかと考え、提案したところ、ようやく受け入れてもらうことができました。
父を特養に入居させることにしたのは、家族が父を大切に思っていなかったからではありません。
自宅での介護を続けることが難しい一方で、父が安全で安心して、快適に生活できる環境を確保する必要があったからです。
現在、父は92歳になりましたが、今も特養で暮らしています。
私たち夫婦は、当時、父の入居を決断したことはよかった、間違っていなかったと考えています。
少なくとも私たち家族にとっては、父の生活を支えるために必要な選択だったのだと思います。
今度は母が入院し、退院後の生活が問題になった
父の介護については、特養に入居してもらうことで、一つの方向性を見つけることができました。
しかし、今度は母の介護という問題に直面しています。
母は5月に呼吸が苦しくなり、不調を訴え、入院しました。2週間ほどで退院しましたが、肺炎と診断され、常時、酸素吸入する必要が生じました。
しかし、家族が注意しても、在宅酸素の機器をつけることを嫌がりました。そうこうしているうちに、8月に入ると、さらに体調が悪化し、自身の食事を準備することが億劫になってきました。
ほとんど外出もせず、こちらで用意した食事もあまり食べません。どんどんやせ細っていきました。8月下旬には、かなり苦しそうに見えたので、かかりつけ医に行こうと言いましたが、「いやだ。行きたくない」と拒むのです。
致し方なく、私がかかりつけ医に電話連絡し、状況を説明すると、「一度、酸素の吸入量を増やして様子をみましょう。それでも悪化するようなら、迷わず救急車を呼んでください」と指示されました。
かかりつけ医「悪化が続くなら迷わず救急車を!」
さらに翌晩には、私が休もうとしていると、母の部屋からドンドンと大きな音が漏れてきます。何事かと思い、部屋に入ってみると、ベッドに座って杖で床を叩いています。
「どうしたの?何してるの」と聞くと、うまくスマホの操作ができずイラついているようで、怒りの表情を浮かべています。さらに、深夜にもかかわらず「外にでる」と叫んでいます。
ようやく廊下に出たところで、外が真っ暗であることで、夜遅いことにようやく気付いて寝かせることができました。ところが、翌朝には、起き上がれない状況に。パルスオキシメーターを使って血中酸素を図ると68%という衝撃の数値がでていたため、急遽、救急車を呼び、再入院することとなりました。細菌性肺炎と診断されたのです。
救急車を呼んで、再入院。歩行が困難に
さらに、今回の入院を経て、母の身体の状態が以前よりも厳しくなっていることを実感しました。
自分の力だけで歩くことは難しく、日常生活にも手助けが必要です。
また、同じことを何度も聞き返したり、同じ話を繰り返したりすることも増えてきました。認知症の症状も出始めています。急性期の病院での認知度検査では、30点満点中17点とかなり進行した結果となりました。
こうした状態を考えると、母を自宅に連れて帰ることには大きな不安があります。
ちなみに、我が家は私たち夫婦と同居しています。母の寝室は扉をあけるとすぐのところには下り階段があります。トイレやキッチンに行くには必ず通らなければいけません。もし、立ち上がったり、車いすで動いたときに、ふらっとすれば、真っ逆さまに落ちてしまう恐れがあります。
何より、私たち夫婦は仕事をしているため、日中は家を空けなければなりません。自立歩行が難しい母を一人にしておくわけにはいかないのです。
それでも、母は自宅に帰りたいと訴えています。
その気持ちは理解できます。住み慣れた家に戻りたいと思うのは、自然なことでしょう。
しかし、本人の希望をかなえることと、実際に安全な生活を送れることは、必ずしも同じではありません。
要介護2では、施設選びにも難しさがある
母の介護を考えるうえで、もう一つ大きな問題があります。それは、介護施設への入居です。
現在、母の要介護度は2です。
特別養護老人ホーム(特養)は、原則として要介護3以上の人が新たに入居する施設です。そのため、母の場合、一般的な入居条件だけでは特養への入居が難しい状況にあります。
一方で、要介護1・2であっても、在宅生活が困難な事情がある場合には、特例として入居が認められることがあります。ただし、所定の要件を満たす必要があり、必ず入居できるわけではありません。
さらに、母には在宅酸素療法への対応も必要です。
そのため、介護度だけでなく、酸素療法に対応できる体制が整っているかどうかも、施設選びの重要な条件になります。
現在、私たちが検討しているのは、在宅酸素療法に対応できる有料老人ホームへの入居です。
母が家に帰りたいと願っていることを考えると、施設への入居を検討するのは心苦しい面もあります。
しかし、自宅で一人で過ごすことの危険性や、家族が仕事をしながら必要な介護を続ける難しさを考えれば、現実的な選択肢を探さなければなりません。
母の気持ちを大切にしたい。それでも、安全に暮らせる環境を確保することも大切です。
その両方を考えながら、今後の生活について判断していきたいと思っています。
親を家に帰さない私は、冷たい人間なのだろうか
親が家に帰りたいと言っているのに、施設への入居を考える。
そのような判断をした家族は、周囲からどう見られるのでしょうか。
「育ててもらった親なのだから、面倒を見るのが当然だ」
「本人が家に帰りたいと言っているのだから、帰してあげればいい」
そんな意見を持つ人もいるかもしれません。
確かに、親の気持ちを考えれば、できるだけ希望をかなえてあげたいと思います。
しかし、実際に介護をする家族には、外からは見えにくい事情があります。
家族の生活を犠牲にしてはいけない
仕事を続けなければなりません。自分の配偶者との生活もあります。子どもたちから孫の面倒を頼まれることもあります。そして、介護する側自身にも健康面での不安があります(二人とも毎週のように何らかの病院に通っているのです)。
そのうえで、日常生活を送ることが難しくなった親の介護まで担わなければならないのです。
もちろん、家族が協力し、在宅介護を続けられる場合もあるでしょう。
しかし、すべての家庭が同じ条件にあるわけではありません。
住まいの広さ、家族の仕事、介護する人の健康状態、本人に必要な手助けの程度。それぞれの事情によって、できることは違います。
家に帰してあげたいと思っても、現実には難しい。
その判断をしただけで、冷たい人間だと思われるのだとしたら、介護する家族にとって、これほどつらいことはありません。
親の介護を担う家族にも、自分たちの生活を守る権利があるはずです。
無理を重ねて家族が疲れ果ててしまえば、本人にとっても、介護する側にとっても、よい結果にはならないのではないでしょうか。
施設に任せることも、親を守るための選択肢
私は、親を施設に入れることが、必ずしも冷たい選択だとは思いません。
むしろ、家族だけでは安全な生活を支えることが難しい場合には、施設を利用することも、本人の生活を守るための大切な選択肢だと考えています。
父を特養に入居させたときも、家族として悩みました。
母の気持ちを理解していたからこそ、簡単に決断できたわけではありません。
それでも、父の身体の状態や自宅の環境、私たち夫婦の仕事などを考えると、在宅介護を続けることには限界がありました。
母の介護も さまざまな方法を検討
今回の母の問題でも、同じようなことを考えています。
本人が家に帰りたいと思うことと、家に帰って安全に生活できることは、必ずしも同じではありません。
だからこそ、本人の希望を大切にしながらも、身体の状態や必要な介護、家族が支えられる範囲を冷静に考える必要があります。
施設への入居を検討するときには、家族だけで結論を出そうとせず、病院の退院支援担当者や医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーなどに相談し、利用できる支援や生活環境について確認することも大切です。
在宅での生活を続ける方法があるのか。施設で暮らす場合には、どのような選択肢があるのか。
情報を集め、専門職の意見も聞きながら、本人と家族にとって無理のない方法を考えていく必要があると思います。
施設に入居してもらうことだけが正解だとは言い切れません。
しかし、自宅で介護することだけが正解でもないはずです。
親の介護に悩む家族が、罪悪感だけで判断しなくてよい社会に
親の介護については、家族が面倒を見るのが当然だという考え方が、今も根強く残っているように感じます。
もちろん、親を大切に思う気持ちは大事です。
ただ、親を大切に思うことと、家族がすべての介護を自分たちだけで担うことは、同じではありません。
親が家に帰りたいと願っている。その気持ちを理解しながらも、帰宅後の生活を支えられないと悩んでいる家族は、私たちだけではないと思います。
介護する家族にも仕事があり、生活があり、守らなければならない家庭があります。
その現実を考えれば、介護施設を利用することを、家族の愛情が足りないからだと決めつけるべきではないでしょう。
むしろ、家族だけでは難しい部分を専門職の力も借りながら支えていく。そのような考え方が、もっと当たり前になってほしいと思います。
家族それぞれが安心して暮らせるように
施設で暮らすことになっても、家族であることに変わりはありません。
父の介護を経験し、今度は母の退院後の生活について悩む中で、私はそのことを改めて考えています。
親を施設に入れることに罪悪感を抱いている人がいたら、どうか、自分だけを責めないでほしいと思います。
大切なのは、周囲からどう見られるかだけではなく、本人が安全に暮らせること、そして介護する家族も生活を続けていけることではないでしょうか。
私自身、母の今後については、まだ考えなければならないことがあります。
これからも父と母の介護を通して経験したこと、悩んだこと、そして決断したことを、このブログに記録していきたいと思います。
同じように親の介護で悩んでいる方にとって、何かを考えるきっかけになれば幸いです。

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