認知症の親が施設に入所したり、配偶者が入院したりすると、これまで以上にお金が必要になります。
ところが、親名義の銀行預金があるにもかかわらず、家族が自由に引き出したり、口座間で移動したりできない場合があることをご存じでしょうか。
私も、認知症の父名義の定期預金を解約し、普通預金に移そうとしたところ、思いがけず大きな壁にぶつかりました。
父は特別養護老人ホームに入所しており、車椅子での生活です。母も入院し、今後の生活費や施設への入居費用を考えると、預金を動かす必要がありました。
しかし、銀行から求められたのは、口座名義人である父本人の意思確認でした。
ATMでの手続きはできず、家族が代わりに手続きすることも認められません。成年後見制度も検討しましたが、簡単には決断できませんでした。
最終的に、何度も父に説明を重ね、春ごろから取り組んでいた手続きが、約半年かかってようやく実現しました。
この記事では、認知症の親の銀行預金を動かす際に私が直面した問題と、実際に手続きを進めた経験を紹介します。同じような悩みを抱えているご家族の参考になれば幸いです。
認知症の父の銀行預金を動かす必要が生じた
父の施設費用は年金で賄えても、母の生活費が必要だった
これまで、両親のお金の管理は母がすべて担っていました。父は銀行口座の管理を母に任せきりにしていたのです。
父の普通預金口座は、年金の受取口座であると同時に、日常生活の支払いに使う口座でもありました。特別養護老人ホームの費用も、そこから支払っています。
幸い、父の施設費用は年金とほぼ同じ程度で賄えていました。
ところが、普通預金の残高は少なく、別に定期預金が3口ありました。
母が入院したことで、状況が変わります。
母の入院費に加え、退院後の生活や老人ホームへの入居も考えなければなりません。そこで、父の定期預金を解約し、普通預金に移しておこうと考えました。
父名義の口座の中でお金を移すだけですから、当初はそれほど難しい手続きではないと思っていました。
しかし、現実は違いました。
ATMで定期預金を解約できなかった
家族でも自由に引き出せるわけではない
まず、インターネットで「定期預金から普通預金への移動」と検索してみました。
ATMで手続きできるという情報を見つけたため、父のキャッシュカードを使って試してみましたが、手続きはできませんでした。
そうなると、銀行の窓口で手続きする必要があります。
しかし、父は車椅子で生活しており、施設から銀行まで連れて行くのは簡単ではありません。
そこで銀行の担当者に相談したところ、家族が代理で手続きをするだけでは難しく、最低限、口座名義人本人の意思確認が必要だと説明されました。
さらに、父が施設に入所していることを確認したうえで、銀行の担当者が施設に電話し、父本人と直接話をすることになりました。
問題は、父が認知症を患っていることです。
普通に会話できるときもありますが、話がかみ合わなかったり、質問の意味を理解できなかったりすることもあります。
本人の意思確認が必要という説明は理解できました。しかし、実際にそれをクリアするのは、かなり難しいことのように感じました。

1回目の本人確認は失敗に終わった
父は銀行からの質問に答えられなかった
5月、私は父の施設を訪ね、定期預金を解約する必要性を説明しました。
ところが、父は「話は分かるが、これまで口座を管理していた女房から話があるのが筋ではないか」という反応でした。
夫婦の生活費が不足する可能性があることや、銀行口座の手続きとの関係が、うまく伝わっていないようでした。
その後、母からも電話で説明してもらい、父の了解を得たということで、銀行の担当者に施設への電話を依頼しました。
私はその場に同席するため、有給休暇を取って施設へ向かいました。
ところが、施設の会議室に用意されていた電話は古いタイプで、スピーカーに切り替えることができません。
銀行の担当者の声は私には聞こえず、父の受け答えを聞くことしかできませんでした。
父は名前や生年月日には答えられましたが、その後は「聞いていない」「お金のことは分からない」の繰り返し。
結局、銀行側が必要とする本人の意思確認はできず、手続きは進みませんでした。
せっかく時間を作って施設まで行ったのに、何も進展しなかったのです。
正直、がっくりしました。
認知症の親の預金を動かせない場合、どんな方法があるのか
銀行の担当者に、本人の意思確認ができない場合の対応について改めて尋ねました。
私が説明を受けたのは、次の2つの方法です。
方法1:相続に関係する親族の書類と承諾書を提出する
銀行から提示されたもう一つの方法は、相続に関係する人全員の戸籍謄本と、資金移動についての承諾書をそろえることでした。
ただし、私の場合は5人兄弟です。
全員に協力してもらい、必要な書類を集めるだけでも手間がかかります。
また、説明では移動できるのは最低限必要な金額に限られ、今後も同様の手続きが必要になる可能性がありました。
さらに、キャッシュカードが使えなくなり、必要な金額を引き出す際にも、その都度、窓口で手続きすることになるとのことでした。
母の入院費や今後の生活費を考えると、一度だけの手続きで済むとは限りません。
家族の負担を考えると、簡単に選べる方法ではありませんでした。
なお、これは私が利用している銀行から案内された方法です。必要書類や対応は金融機関や個別の事情によって異なるため、同じ方法がどの銀行でも利用できるとは限りません。
方法2:成年後見制度を利用する
もう一つの選択肢は、成年後見制度を利用することでした。
そこで私は、区の無料相談で弁護士に相談しました。
長男である自分が成年後見人になれるのかと尋ねたところ、成年後見人は家庭裁判所が選任するため、親族が必ず選ばれるわけではないと説明されました。
弁護士や司法書士などの専門職が選任された場合には、報酬が発生することもあります。
また、成年後見制度は、預金の手続きが一度済めば終わりというものではありません。家庭裁判所の説明でも、後見等が開始されると、原則として本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで続くとされています。
もちろん、成年後見制度は本人の財産や権利を守るために重要な制度です。ただ、私の場合は、預金を動かすという当面の目的に対して、どのような影響や負担が生じるのか、慎重に考える必要がありました。
最終的には、父本人の意思確認をもう一度試みることにしました。
2回目の挑戦では、父への説明方法を変えた
何のために、どのような手続きが必要なのかを具体的に伝える
9月になっても、母の入院や今後の生活費の問題は解決していませんでした。
兄弟全員の書類を集める方法も考えましたが、家族に手間をかけることを考えると、なかなか踏み切れません。
そこで、もう一度、父本人の意思確認に挑戦することにしました。
前回は、母からの電話で了解を得たことに頼っていました。
今回は私自身が直接、父に説明することにしました。
父に何度も話しかけ、なぜ預金を移す必要があるのか、銀行からどのような質問をされるのかを、できる限り具体的に伝えました。
それでも、最初からすんなり理解してくれたわけではありません。
「既に銀行に了解と伝えた」「これまで管理してきたのは女房なのだから、そちらに確認してもらいたい」と話します。
そこで3回目の訪問では、説明用の書類を作りました。
書類には、生活費が不足する可能性があること、定期預金を解約して普通預金に移す必要があること、銀行から本人に直接確認があることを記載しました。
また、父自身が銀行に伝える内容も整理しました。
すると、ようやく「これを言えばいいんだな」と納得してくれました。
施設のケアマネジャーからは難しいと言われた
施設を訪れた際、銀行から電話をもらう予定であることをケアマネジャーに伝えました。
すると、「これまでの経験からすると難しいと思いますよ」と言われました。
その言葉を聞き、再び不安になりました。
それでも、今回は電話のやり取りを少しでもスムーズにするため、施設の電話で受けたあと、携帯電話からかけ直してスピーカーモードで話せないかとも考えていました。
ついに銀行の本人確認をクリアできた
いよいよ、再挑戦の日がやってきました。
施設に少し早めに到着し、父にもう一度、説明用の書類を見せながら話をしました。
「質問があるので、これとこれを話してほしい」と伝えると、父も納得した様子でした。
銀行から電話がかかってきたため、携帯電話からかけ直せないか尋ねましたが、それは認められませんでした。
仕方なく、受話器に耳を近づけ、担当者の質問を聞き取ることにしました。
まず、氏名、生年月日、自宅住所などの本人確認が行われました。ここは無事に終わりました。
続いて、銀行の担当者から「今回どのようなことを希望されているのですか」と質問されました。
父は、事前に説明したとおり、「夫婦の生活費を賄うため、定期口座を解約し、普通口座に移動したい」と答えてくれました。
さらに、長男である私に手続きを任せることも、何とか伝えられました。
こうして、ようやく資金を移動するための手続きを進められることになったのです。
春ごろから取り組み始めて、約半年。
ここまで時間がかかるとは、想像もしていませんでした。
認知症の親の銀行預金で困らないために、家族が知っておきたいこと
今回の経験から、同じような状況になったときに備え、次の点を意識しておくことが大切だと感じました。
1.まずは取引銀行に相談する
認知症の親の預金を動かしたい場合、家族だけで判断せず、まず取引銀行に相談しましょう。
本人が窓口に行けない場合や、本人との意思疎通が難しい場合には、どのような手続きが可能なのかを確認する必要があります。
必要書類や本人確認の方法は銀行によって異なる場合があります。最初に事情を具体的に説明し、利用できる方法を確認しておくとよいでしょう。
2.本人が理解しやすい説明を工夫する
私の場合、何度も口頭で説明するだけでは、父の理解を得られませんでした。
そこで、生活費が不足する可能性や、定期預金を解約する目的、銀行に伝える内容を紙にまとめました。
もちろん、書類を作れば必ず本人確認ができるわけではありません。
大切なのは、本人の理解や意思を無視して、決めた言葉を言わせることではありません。手続きの目的を本人が理解できるように説明することだと思います。
銀行からの質問には、本人が自分の意思で答えられるように準備しておくことが重要です。
3.成年後見制度について早めに情報を集める
本人の意思確認が難しい場合は、成年後見制度などの利用を検討することも選択肢になります。
成年後見制度では、家庭裁判所が本人の状況などを踏まえて後見人等を選任します。親族が必ず選任されるわけではなく、専門職が選ばれる場合もあります。
また、報酬や継続的な財産管理なども考慮する必要があります。
制度を利用すべきかどうかは、本人の判断能力、財産の状況、必要な手続きなどによって異なります。
自治体の相談窓口や、成年後見制度に詳しい専門家に相談し、必要な支援を確認することをおすすめします。
4.介護費用の支払いに必要な資金を把握しておく
今回、私が改めて痛感したのは、親の預金があることと、その預金を必要なときに使えることは別だということです。
親が元気なうちから、日常の支払い口座、年金の受取口座、定期預金などの管理状況を家族で共有しておくことは、将来の備えになります。
ただし、家族だからといって、本人名義の預金を自由に扱えるわけではありません。
本人の意思や権利を尊重しながら、判断能力が低下した場合にどのような手段があるのか、早めに情報を集めておくことが大切だと感じました。

まとめ:認知症の親の預金管理は、家族だけでは解決できないことがある
認知症の父名義の定期預金を解約し、普通預金に移す。
当初は、それほど難しい手続きではないと思っていました。
しかし、ATMでの手続きはできず、銀行からは本人の意思確認を求められました。父が施設に入所していることや、認知症によって意思疎通が難しいこともあり、手続きは何度も行き詰まりました。
成年後見制度も検討しましたが、家族が希望すれば必ず親族が後見人になれるわけではなく、継続的な管理や費用についても考える必要がありました。
最終的には、父に何度も説明し、本人が手続きの目的を理解して銀行の質問に答えられたことで、資金移動を進めることができました。
今回の経験を通して、銀行が本人の財産を守るために慎重な対応を取る理由は理解できます。一方で、介護費用や入院費を支払わなければならない家族にとって、その手続きが大きな負担になることも事実です。
高齢化が進むなかで、同じような悩みを抱える家族は少なくないのではないでしょうか。
親の認知症が進んでから慌てないためにも、預金管理の方法や利用できる制度について、早めに考えておくことが大切だと思います。
※この記事は、筆者自身が経験した銀行手続きと相談内容をもとにまとめたものです。銀行の対応や必要書類は金融機関・個別事情によって異なります。具体的な手続きについては取引銀行や専門の相談窓口にご確認ください。

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